１０年日記（仮） （２）
１９９８年１月１５日（木）
今日は成人式だった。誕生日がまだだから全く実感はないんだけど、まー、高校のときの友達に会えて騒げて嬉しかったかな。雪が降って晴れ着の女の子は大変そうだったな。陽子は来年だから来年は晴れるといいな。やっぱり女の子は晴れ着を着たいものだろうからなー。
飲み会があるかなと思ったんだけど、どうやら皆用事があるようで早めに帰ってきた。つまらん！だけど家に帰ったら親父とお袋が祝杯だー！とか言って酒を用意して待っててくれた。なぜか陽子とママさんがいたけどあれは完全に便乗で騒ぎに来たに違いない。毎度のことだしな。とにかく宴会になり、たらふく飲まされた。俺、一応まだ未成年なんだけどな。。。親父なんか、「息子と酒を酌み交わせて幸せだ！」とか言って泣く始末で、、、そんなに年でもないだろうに。
そして、なぜか日記を書け！ということになった。酔っ払い曰く、「お前はずっと一つのものをやり通したことがないんだから、せめて日記ぐらい継続して書いてみせろ！十年やれ十年！」と。
・・・いや、俺中学校の頃からずっと楽器やってるんですけど。と言うと、「何？何やってるんだっけ？」と・・・。
陽子も帰ってたし、酔っ払いの相手がめんどくさくなったので、「はいはい、やりますよ。」と生返事をすると、にやりと笑いやがって「んじゃ、これな。」とこのノートを渡された。どこまで確信犯なんだ、この親父は。。。
仕方ないから一応書くとするか。と書いてるんだけど、今の今まで日記なんか書いたことないから何をどう書けばいいのかいまいち良く分からない。ま、最初だしこれでいいか。そうだな、やるからには親父の言ったとおり十年続けてみようかな。十年経ったら三十歳だから区切りもいいし。
それにしても眠い。そりゃそうか、あんなに飲んだんだもんな。もう寝よう。
表紙をめくると裏には「十年！」と縦書きで大きく書いてあった。素直なあいつらしいな、と思う。人に言われて素直になれるのは透の長所の一つで、それが皆に愛される理由だろうし、私には凄くうらやましかった。
成人式の日、確かに私は透と祝杯をあげたのは憶えているけれど、帰った後、こんなやり取りがあったなんて知らなかった。一つ一つのやり方が、お義父さん（以前は透パパと呼んでいたのだけど結婚を期にこう呼ばされた。どうやら格上げしたつもりのよう）らしいなと思う。きっと日記を十年間書き続けるということが何か透のためになると信じて疑わなかったのだろう。そして、情報の出所はワイドショーを見た透ママに違いない・・・。
このように推測したところで、やっぱり私はこの家族が大好きだ、と改めて思う。子供の頃は透パパと透ママには透と兄妹のように扱われたけれど、それもまた良い思い出として残っている。
それにしても、この日記は透らしいな、と思う。この成人式のように、出来事や思ったことをびっしりと書くこともあれば、一言で終わっている日もある。例えば、この年の２月３日にある、「疲れた。」のように。透は真面目なんだけれど、適当なところもあることを知っているから。でもそれはあまり人には見せたがらないことも、私は知っている。だからなおさらそう思うのかもしれない。
月日が経っていくうちにペースが掴めたのか、文章が徐々に安定してきたような気がする。たまに、私のことが出てくるので、少し照れくさい。けれどその内容は、「陽子に怒られた」だの「陽子ににらまれた」だのと散々だった。そうか、この頃は透の目にはそう映っていたのか、と、少し悲しくなるぐらい。もう少し優しくしてあげれば良かったのかな、と思いつつも、この頃は私にも怒る理由があったんだということを思い出した。
昔から透は誰にでも優しかった。そしてその頃の私にはその優しさが疎ましかった。私はきっと透を独占したかったのだと思う。だから、つい怒ってしまった。にらんでしまった。私が子供だったと言ってしまえばそれまでだけど、でも、私がそれに気付いたのはずっと後のことだった。その頃は、ただただ無差別な透の優しさが悔しくて悔しくて、それだけだった。
透は子供の頃からずっとそうだった。真面目で誰にでも優しいから、常に皆に愛されていた。女の子にも少なからず人気があったらしい。らしいというのは、私は知らなかったから。うすうす気がついてはいたけれど、透は言わなかったし、学年が違う事もあって、女の子が私に相談してくることも無かったから。
透は私の一つ上の学年だけれど、早生まれだから、たった二ヶ月私より早く生まれただけだった。成長期は女子の方が早く訪れることもあって私のほうが背が高かったし、私が男勝りの性格だったこともあって、小学生のときの私にとっての透はどちらかというと『頼れる兄』というよりは『かわいい弟』だった。
『かわいい弟』が『頼れる兄』に変わったのは小学校から中学校に上がったときだった。
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